バイオミミクリー


梅雨の季節になりましたね。いかがお過ごしでしょうか。今回のコラムはBridge for Children, KGU2回生の槙田雪乃が担当します。

 

さてさて、梅雨ということで、みなさんの頭の中で思い浮かべるものはありますか?鮮やかな青や紫のアジサイを思い浮かべる人もいれば、じめじめした空気を思い出して嫌になる人もいるかもしれません。では、このじめじめした空気の中、ゆっくりと葉っぱの上を動いている、頭に2本の角と背中に殻をそなえた生き物と言えば…?そう、カタツムリです。今日はこのカタツムリに関係したお話をしたいと思います。

 

このカタツムリですが、幼い時に捕まえたり、塩をかけたら消えるかなと言って実験した人もいると思います。私もよくしていました。では、カタツムリの殻が汚れているのを見たことはありますか?傷がついていたり、ぼろぼろになっているのを見たことがあっても、汚れているのを見たことがないのではないのではないでしょうか。実は、カタツムリの殻の表面にはとても細かい溝が広がっていて、そこに水がたまるようになっているんです。油と水は互いに反発する存在なので混ざることはないですよね。つまり、油を殻に垂らし、その上から水をかけると浮いている油はその水と共に流れ落ちるのです。したがって、梅雨の季節のカタツムリは汚れがなく、きれいなんです。この仕組みは現在、住宅のタイルなどに活用されているようです。もし、このことを知らなかったら、私たちは化学物質から作られた洗剤や高圧洗浄機を使って汚れを落とそうとするでしょう。

 

このように、生物の形態や機能、自然の仕組みなどを模倣して、新しい技術や製品を生み出すことを「Biomimicry バイオミミクリー」と言います。ちなみに、「Bio」は生物、「Mimicry」は模倣を表す言葉を組み合わせた用語になっています。有名な例だと、新幹線とカワセミでしょうか。従来の新幹線はトンネルに入るたびに銃声に似た大きな音を立て、近隣住民が不快な思いをしていました。そんな時に、カワセミが水しぶきを上げずに水中へ飛び込む姿から発想を得て、現在の先端が長くて平たい形が生み出されました。

 

このようにバイオミミクリーはたくさんの可能性を持っています。現存する生物のありようを模倣するということは、長い年月をかけて最適化された形態や仕組みを取り入れることになるので、環境負荷が少なくなります。更に、電気といったエネルギーや特別な設備を必要としないので、電気供給の安定しない途上国の空調設備や食料保存などに活用することができます。まさに、環境問題や貧困問題をはじめとしたさまざまな課題に対して大切な解決策になるのではないでしょうか。

 

人間は学問の発達とともに科学技術を発展させ、それによってどうやって利益を倍増させるかということに執着するようになってしまいました。その結果、環境や貧困をはじめとする負の側面が浮き彫りとなっています。たしかに、科学技術の発展によって人間の生活は安定し豊かになったのも事実なので、一概に科学技術の発展を否定しているわけではないですが、私たちの生活が影響を受けていることも事実です。だからと言って、今すぐ火を一から起こして、狩猟や採集で食料を調達する自給自足の原始生活に戻ることは難しいです。

 

このような困難の中でも私たちの身の回りのいきものたちは長い年月の間、進化を遂げながら生き残ってきました。そして、彼らは科学技術に負けないくらい素晴らしい体の構造を持っています。電気や化石燃料がなくても、生きていくことができます。新しいものへ目を向けるだけでなく、現存しているもの、身近にあるものに目を向けることによって、新たな発見や知恵を見つけることができるかもしれません。虫が怖い、気持ち悪いと思っている人がいるかもしれませんが、むしろ尊敬すべき存在といえるのではないでしょうか。

 

人ごみを気にしてしまうこのご時世ですが、身の回りの自然やそこに住む生物に目を向けてみると、もしかしたら新たな発見や、生き物の生きざまから学ぶことがあるかもしれません。

 

様々な不安の中でお仕事や勉強に励んでいる方がいるかと思いますが、ともに頑張っていきましょう。今回も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

EICネット「環境用語 バイオミミクリー」 https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=4514 

株式会社LIXIL「カタツムリの殻をヒントにした防汚外壁タイル」http://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/frontrunner/reports/h29engine_1LIXIL.pdf